麻布 2023年 問2

次の文章を読み
設問に答えなさい。

※漢字の問のためにカタカナ表記のものは
 カタカナのままにしてあります。

草児の友人の文ちゃんに至っては、
自分の家みたいに
なにも言わずに靴を脱いで入ってきていた。

●【文ちゃんのことを考えると、
今でも手足がぐったりと重くなる】。

そのまま身体が沈んでいきそうで、
こわくなって掛け布団をぎゅっと握った。

文ちゃんとは保育園からのつきあいだった。

身体がずんぐりと大きかった。

ひょろひょろした草児と並ぶと、
同じ年齢には見えなかった。

文太という自分の名を
年寄りっぽいという理由で嫌っていた。

俺が草児を守ってやる、
が口癖だった。

足が遅いし、力も弱いから、
俺が守ってやらないといけない、と。

通りすがりに
たまたまそれを聞きつけた
一年生の時の女の担任が

「わあ、頼もしいね。草児くん、
文太くんがいてよかったね」

と声をかけてきて、
先生がそう言うのなら
そうなのだろうとその時は思った。

自分は文ちゃんに守られていて、
それは幸せなことなのだろうと。

四年生になると、
文ちゃんは文ちゃんのお母さんから
一日百円のおこづかいをもらうようになった。

その話を聞いた草児の母も、
同じようにした。

ふたりの母はいっしょに
PTAの役員をやったりして、
仲が良かった。

毎日百円を持って小学校近くの
フレッシュハザマという
スーパーマーケットに行く
シュウカンがうまれた。

最初のうちは
※うまい棒やおやつカルパスなどを
買っていたのだが、
文ちゃんは次第に、
百円以上の菓子を欲しがるようになった。

よほど腹が減っていたのか、
菓子では飽き足らず、
惣菜売り場の唐揚げなどに
目を向ける日もあった。

でも金が足りないなあと言いながら
横目でちらちら見られると、
草児はなんだかそわそわしてきて、
毎回自分の手の中の百円を
差し出してしまうのだった。

文ちゃんは礼を言うでもなく、
それをぶんどっていく。

二百円で買った大袋入りの
ポテトチップスやポップコーンや唐揚げは、
ぜんぶ文ちゃんが食べた。

「百円出せよ」と脅されたわけでも、
「百円くれよ」と泣いて
懇願こんがんされたわけでもない。

それでも、何度考えても、
草児には文ちゃんに百円を
差し出さずに済む方法がわからなかった。

どうしても、わからなかった。

( 『タイムマシンに乗れないぼくたち』
 寺地はるな より)

※うまい棒やおやつカルパス…
 ともに駄菓子の商品名。

※懇願…
 必死に頼みこむこと。

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■問

●【文ちゃんのことを考えると、
 今でも手足がぐったりと重くなる】
 とありますが、なぜですか。

 その理由としてふさわしいものを、
 次の選択肢の中から
 1つ選んで記号で答えなさい。

イ 文ちゃんとは親しい関係であったが、
  いつもおこづかいを暗に求められて
  拒めない自分がいやだったから。

ウ 文ちゃんはいつも
  しつこくつきまとってくる
  迷惑な存在だったので、
  思い出すとつらくなってしまうから。

※本来はア~エの選択肢でしたが
 答えからかけ離れた
 アとエの選択肢は削りました。

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■解説・解答

 【…手足がぐったりと重くなる】とは
 憂鬱な気持ちになるということですが
 どうしてそういう気持ちに
 なるのでしょうか。

 それは草児の心の中に
 文ちゃんに対して悪い印象が
 残っているからですね。

 では、その悪い印象とは
 どういうものなのでしょうか。

 この本文の最後に

「文ちゃんは…
 でも金が足りないなあと言いながら
 横目でちらちら見られると、
 草児はなんだかそわそわしてきて、
 毎回自分の手の中の百円を
 差し出してしまうのだった。

 文ちゃんは礼を言うでもなく、
 それをぶんどっていく。

 二百円で買った大袋入りの
 ポテトチップスやポップコーンや唐揚げは、
 ぜんぶ文ちゃんが食べた。

『百円出せよ』と脅されたわけでも、
『百円くれよ』と泣いて
 懇願されたわけでもない。

 それでも、何度考えても、
 草児には文ちゃんに百円を
 差し出さずに済む方法が
 わからなかった。 」

 とありますので、これが草児が
 憂鬱な気持ちになる原因ですね。

 ここまで分かったところで
 各選択肢を見てみましょう。

イ 文ちゃんとは親しい関係であったが、
  いつもおこづかいを暗に求められて
  拒めない自分がいやだったから。

 前半の
「文ちゃんとは親しい関係であった」に
 疑問を持たれた方も
 いらっしゃるかもしれませんが
 
「毎日百円を持って…
 スーパーマーケットに行く
 シュウカンがうまれた。」

 というところから
 親しい関係が読み取れます。

 ただ、文章の最後にあるように

「いつもおこづかいを暗に求められて
 拒めない自分がいやだった」

 わけですね。

 ○です。

ウ 文ちゃんはいつもしつこく
  つきまとってくる
  迷惑な存在だったので、
  思い出すとつらくなってしまうから。
 
「いつもしつこくつきまとってくる」が
 違うのではないでしょうか。

「百円を持って…
 スーパーマーケットに行く
 シュウカンがうまれた。」からは
「しつこくつきまとってくる」
 までは読み取れません。

 また、文ちゃんから
「『百円出せよ』と脅されたわけでも、
『百円くれよ』と泣いて
 懇願されたわけでもない。」

 とあるので、これも

「しつこくつきまとってくる」

 とは言い難いです。

 ×です。

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解答(学校発表なし)
  
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★おまけ

 この、寺地はるなさんの
『タイムマシンに乗れないぼくたち』は
 2022年の2月に出版されましたが
 約1年後の2023年の入試では
 出題ラッシュになり
 麻布の他に、浦和明の星、
 同志社香里、渋渋、さかえ東でも
 出題されました。
 
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