次の文章を読み
設問に答えなさい。
隣の席の女子は、
消しゴムを受けとった草児が
「ありがとう」と言った時、
あきらかにおどろいていた。
効果音をつけるとしたら
「ハッ」ではなく
「ギョッ」というおどろきかただった。
転校してきた目、
黒板に大きく書かれた
「宮本草児」という文字の前で
自己紹介をしている時、
誰かが笑った。
「なんか、しゃべりかたへんじゃない?」
と呟いたのも聞こえた。
ひとりが発した笑い声は、
ゆっくりと教室全体に広がっていった。
風に吹かれた草が揺れているようだった。
風はやがて止んだが、
草児はもう口を開くことができなかった。
黒板に書かれた
「宮本草児」という名も
他人のもののように感じられた。
両親の離婚を受け入れたことと
自分が母の名字を
名乗ることになったことは、
また別の話なのだ。
担任の先生は笑った生徒を
注意するわけでもなく、
自己紹介を途中でやめた草児に
続きを促すわけでもなく、
授業をはじめた。
(中略)
転校してくる前の草児が、
そんなふうに考えたことは
一度もなかった。
世界はもっと、
ぼんやりとしていた。
自分がその世界の一部だったからだ。
今は違う。
世界と自分とが
くっきりと隔てられている。
ガラスだかアクリルだかわからないけど、
なんだか分厚い透明ななにかに
隔てられている。
●【そう思うことで、
むしろ草児の心はなぐさめられる】。
自分はこの学校になじめないのではなくて、
ただ博物館で展示物を見ているように
透明の仕切りごしに
彼らを観察しているだけ、
というポーズでどうにか顔を上げていられる。
( 『タイムマシンに乗れないぼくたち』
寺地はるな より)
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■問
●【そう思うことで、
むしろ草児の心はなぐさめられる】
とありますが、 なぜですか。
その理由としてふさわしいものを、
次のア、ウの中から選んで
記号で答えなさい。
ア アクラスメイトに笑われたとしても、
分厚い透明ななにかによって
隔てられていると思うことで、
彼らの存在を気にせずに
いることができて安心するから。
ウ クラスメイトから隔てられているとは
考えず、透明の仕切りごしに
彼らを観察していると思うことで、
教室にとけこめない現実を
意識しないですむから。
※本来はア~エの選択肢でしたが
答えからかけ離れた
イとエの選択肢は削りました。
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■解説・解答
まず【 】内の指示語
「そう思う」の内容を明らかにしましょう。
直前を見ると
「世界と自分とが
くっきりと隔てられている。
ガラスだかアクリルだかわからないけど、
なんだか分厚い透明ななにかに
隔てられている。」
とあるので、これが
「そう思う」の内容にあたります。
また【 】の後ろの内容にも着目しましょう。
「自分はこの学校になじめないのではなくて、
ただ博物館で展示物を見ているように
透明の仕切りごしに
彼らを観察しているだけ、
というポーズでどうにか顔を上げていられる。」
ここまで抑えたら、選択肢を見ましょう。
ア アクラスメイトに笑われたとしても、
分厚い透明ななにかによって
隔てられていると思うことで、
彼らの存在を気にせずに
いることができて安心するから。
ほとんど合っていそうですが
最後の「安心する」が気になります。
本文には「安心する」や
それに似た表現はありませんが
「安心する」から
「心はなぐさめられる」と考えれば
辻褄が合います。
ウ クラスメイトから隔てられているとは
考えず、透明の仕切りごしに
彼らを観察していると思うことで、
教室にとけこめない現実を
意識しないですむから。
【 】の直前に
「世界と自分とが
くっきりと隔てられている。
ガラスだかアクリルだかわからないけど、
なんだか分厚い透明ななにかに
隔てられている。」
とあるので、この選択肢の最初の
「クラスメイトから隔てられているとは
考えず」が違います。
後半は本文の内容と
合っていると思いますが
前半が決定的に違うので
×です。
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■解答(学校発表なし)ア
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★おまけ
この文章の主人公の草児は
両親が離婚していますが
最近、こういう
「事情があるご家庭」の物語文が
多く出題されるようなった気がします。
この他にも、2018年の
開成中の大問題1の文章
青山美智子 著 『きまじめな卵焼き』も
父親が売れない画家で
母親がバリバリ働いて
生計を立てているという
「事情があるご家庭」の物語文でした。
おそらく、中学受験をされる
ご家庭ではあまり無いケースを
あえて出題することにより
受験生がどれだけ勉強してきたのかを
はかろうとしているのだと思います。
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