2023年 海城中 一般入試1 大問題1 問2

■次の文章を読み、
 後の問に答えなさい。

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「……仕方がない。私の部屋で待つか」

【中略】

おばあさんの部屋の間取りは
僕たちが住んでいる部屋よりも狭かった。

リビングの真ん中に大きな
木のテーブルがあり、その上に
古い本が崩れそうに重なっている。

壁際は全部本棚で、その前に
描きかけの絵がいくつかあった。

【中略】

そんな僕におばあさんが言った。

「どの本も自由に読んでいいから。
 貸してあげることはできないけれど」

「あの、手を
洗わせてもらってもいいですか?」

【中略】

掌に水をためてうがいをしていると、
おばあさんがどこからかゾウの絵のついた
プラスチックのコップを持ってきてくれた。

コップにはマジックで
「三四郎」と書かれている。

「死んだ亭主の」と
おばあさんは真顔で言った。
 
【中略】

僕はまた本棚の前に戻った。

「本が好きなの?」

「はい」と答えたものの、
ここに僕が読めるような本は
ないみたいだった。

背表紙が黒ずんで
本の名前がわからないものもあるし、
英語の本も多い。

そんな僕を見ておばあさんが言った。

●【「三四郎の本がほとんどなのよ。

死んだあとにこんなに残されてもねえ」】

窪 美澄(くぼ みすみ)著

「星の随(まにま)に」
『夜に星を放つ』所収より

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■問 

●【死んだあとにこんなに
 残されてもねえ】とあるが、
 この時の「おばあさん」を説明した
 ものとして最も適当なものを、
 次の中から選びなさい。

イ 自分にとっては何の意味もないが、
  本好きだった夫が大切にしていた本を
  処分することもできず持て余している。

エ  夫の残したたくさんの古い本を前にして、
  自分を残して先に死んでいった
  夫のことをしみじみと思い出している。

※本来はア~エの4択でしたが
 2択にしました。

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■選択肢問題の解き方の手順

1 問で聞かれていることを確認する。

  何について考えるのか?

2 1にもとづいて本文を読みかえす。

※本文全てを丁寧に読む必要はない。
 
 正誤の判断材料が書かれていそうな
 ところだけ丁寧に読んで
 そこに線を引く。

※頭の中だけで整理できるのであれば
 線は引かなくても良い。

3 2で見つけた箇所にもとづいて
  それぞれの選択肢の正誤を判断する。

※選択肢が長い時は
 句読点などで切り、そこに
 /(スラッシュ)を入れる。

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■解説・解答

 この問のポイントは、
 おばあさんが死んだ亭主の
 プラスチックのコップをまだ
 持っている、
 ということだと思います。

 プラスチックのコップは
 捨てようと思えば簡単に捨てられますが
 それでも持っているのは
 死んだ亭主のことを忘れたくない
 というおばあさんの気持ちからですね。

 それが分かったところで
 各選択肢を見てみましょう。

イ 

【自分にとっては何の意味もないが、/】
⇒×

 おばあさんは
 本好きではないようですが
 死んだ亭主のコップもまだ捨てずに
 持っていることから、本もそのような
 大切な品だということが分かります。

 この部分が×である以上
 これより先は見なくて良いです。

【夫の残したたくさんの
 古い本を前にして、/】
⇒〇

「三四郎の本がほとんどなのよ。」

 というおばあさんのセリフより。

【自分を残して先に死んでいった夫の
 ことをしみじみと思い出している。】
⇒〇

「死んだあとにこんなに残されてもねえ」

 と言った時のおばあさんの
 様子を想像してみてください。

 夫が生前使っていた
 プラスチックのコップを
 まだ持っていることからも
 怒ったりするのではなく
 少しさみしそうに
 しみじみと言っている様子が
 想像できます。

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■解答(学校発表のもの)エ

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★おまけ

 この文章も
 主人公の両親が離婚しているという
 ワケありな設定です。

 以前にもお話しましたが
 最近の入試にはこういう
 ワケありな家族の文章が
 増えてきました。

 この傾向は、2018年の開成中の
『きまじめな卵焼き』という文章から
 始まったように思われます。

 中学受験をするご家庭には
 あまり見られない設定の文章を出して
 受験生がどれだけ勉強してきたのかを
 はかろうとしているのだと思います。

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