論説文は、話題と
筆者の主張を掴みましょう。
「…について、筆者は~
ということを言おうとしている。」
と考える(要約する)と
内容が理解しやすくなります。
2023年開成中学
大問題1の文章の
6分割中の3つ目の部分です。
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■次の文章を読んで
「…について、筆者は~
ということを言おうとしている。」
の型で要約しなさい。
※この問はオリジナルです。
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以下の文章は、
建築家である筆者が、
1980年代の建築業界と、
高知県檮原(ゆすはら)町での
経験とをふりかえった文章です。
なお、本文中の[=]は、
出題者の付けた注・解説です。
若い建築家から、
一言アドバイスを求められると、
「仕事がないことを大事にするといいよ」と
答えることにしている。
大抵、みんな
それを聞いてポカンとする。
建築家は、依頼がないと
建築を建てられない職業なので、
どうしても仕事をとりに走り回ってしまう。
画家と建築家とは、
そこが一番違う。
そうやって走り始めると、
日々の仕事に追われてし まって、
こなすだけになる。
自分の作っている建築に
どんな意味があるか、
社会が今どんな建築や都市を
必要としているか、
未来の人間がどんな建築、都市を
必要としているかを
考える時間がなくなってしまう。
職人とじっくり話すという時間も
なくなってしまう。
ものを実際に作る彼と話すことでこそ、
建築にはリアリティが与えられ、
生命が叩き込まれる。
86年にニューヨークから
バブル真っ盛りの日本に帰ってきた時の僕も、
そんな感じで、忙しかった。
しかし、まったくありがたいことに
バブルがはじけた。
バブルという「祭り」が終わって、
「祭りのあと」に投げ出されることになった。
檮原の仕事をはじめる前のバブルの時代は、
東京の仕事に追われていた。
職人とじっくり話す機会はまるでなかった。
東京の工事現場は、
建設会社のエリート社員である
現場所長が仕切っていて、
原則として所長としか
話をしてはいけないというルールがあった。
彼を通り越して、
僕が直接職人と話して
様々なアイデアを交換すると、
コスト[=値段]やスケジュールの点で
面倒なことになるリスクがある。
所長はその面倒を一番嫌う。
話す相手は所長だけ、
話題はコストとスケジュールだけというのが、
都会の現場の決まりであった。
「とってもいいデザインだと思いますが、
何しろスケジュールが
タイトな[=ゆとりがない]ので、
普通の収まり(ディテール[=仕上げの細部])
でやらしてください。
コストオーバーで、
スケジュールが遅れることも、
絶対できませんから」というのが、
すべての現場所長の口癖であった。
(隈研吾(くまけんご)『ひとの住処』)
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■解説
後半の「86年にニューヨークから…」
のところで
「職人とじっくり話す機会はまるでなかった」
ことについて
理由も含めて詳しく説明されていますが
結局、この文章で筆者が言いたいことは
何なのかを考えます。
すると筆者が言いたいことは
以下の部分ではないでしょうか。
★「自分の作っている建築に
どんな意味があるか、
社会が今どんな建築や都市を
必要としているか、
未来の人間がどんな建築、都市を
必要としているかを
考える時間がなくなってしまう。
職人とじっくり話すという時間も
なくなってしまう。」
2回、「なくなってしまう」と
嘆いていますが
これは裏を返すと
「いや、それが必要なんだ」ということを
言いたいわけですね。
※「時間がないと嘆く」
=「もっと時間が必要」
ということですね。
ただ、これをそのまま要約にしてしまうと
少し読みづらいので
読みやすいように変えます。
★「自分の作っている建築に
どんな意味があるか、
社会が今どんな建築や都市を
必要としているか、
未来の人間がどんな建築、都市を
必要としているかを
考える時間がなくなってしまう。
職人とじっくり話すという時間も
なくなってしまう。」
↓
◎「自分の作っている建築の意味や
現在と未来の社会が必要としている
建築や都市を考え
職人とじっくり話す時間が必要」
また、これは
何についての話かと言うと
「建築家」という職業についてですね。
なぜなら、この文章の最初に
「若い建築家から…
アドバイスを求められると
~と答えることにしている。」
と言っているからです。
若い建築家に
「建築家とはこうあるべきだよ」
という指針を示しているわけですね。
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■解答
建築家という職業について
「自分の作っている建築の意味や
現在と未来の社会が必要としている
建築や都市を考え
職人とじっくり話す時間が必要」
ということを言おうとしている。
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★おまけ
この、『ひとの住処』には
比喩表現が多いですね。
「建築家」を「武士」にたとえたり
「バブル」を「祭り」にたとえています。
こういう、比喩が多い文章は
入試に出やすいです。
(この、『ひとの住処』はまだ2023年の
開成にしか出ていませんが。)
その理由は、東大には
比喩の内容を問う問題が多く
その内容が分かっているかどうかで
受験生の理解度を
はかることができるからです。
以前、宮下奈都さんの
『羊と鋼の森』という文章から
多くの学校が出題しましたが
この文章にも比喩が多用されています。
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