2023年 渋渋 第1回入試 大問題1 問2

■次の文章を読んで
 後の問いに答えなさい。

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「よく最後までついてきたじゃん。

 ラスト5キロ、結構上げたのに」

※蔵前に比べたら
 若干息の乱れている
※八千代が、短く「はい」と頷く。

「昨日と今日、
 八千代を見てて思ったのは、
 長い距離を歩くとき―特に
 後半に入るとフォームが安定しない。

 スパートをかけたときに
 スピードを出そうと《走り》の動きが
 出て来ちゃうんだな。

※警告出されるの、
 レースの後半が多いだろ?」

 ハッと顔を上げて、蔵前を見た。

 八千代も全く同じことをした。

※能美も、関東インカレも、
 日本インカレも、八千代は
 レースの後半に決まって
 警告を出された。

 ここからスパ ート合戦が
 始まるというとき、
 狙ったように出鼻を挫かれるのだ。

「かーなーり、
 直し甲斐のあるフォームだから、
 五日間みっちり鍛えてやるよ。
 綺麗になるぞぉ」

【中略】

「歩くの嫌いか?」

 普段の人懐っこさとか、
 気さくな先輩という印象からはほど遠い、
 低く冷たい蔵前の声がする。

【中略】

「過酷な競技だよ。

 苦しいことばかりだ。

 俺だってそうだ。

 でも、歩いてるときの君は、
 刑罰でも受けてるような顔をしてる。

 早くこの刑期を終えて
 自由になりたいって顔だ」

【中略】

「違うの? 

 本当はさ、走りたいんじゃない?

 走りたいけど仕方なく競歩やってない?

 走れない鬱憤とか苛立ちを
 エネルギーに競歩をやるなら、
 それを走ることに向けた方が
 いいんじゃないの?」

 蔵前の言っていることは、
 多分、正しい。

 八千代だって、長距離走を
 続けられるならきっと続けたに違いない。

【中略】

「さっきも必死に俺についてきたけど、
 あれがレースだったら失格だ。

『冷静になれ』って何回言った?

 なのに、勝手に焦って
 不安になって食らいついてくる。

 今のままじゃ、日本選手権だろうと
 全日本競歩だろうと、
 ラストで勝負すらできずにまた負けるよ」

【中略】

 的確に、
●【八千代の本質と弱点を見抜いている】。

 額賀 澪(ぬかが みお)著

『競歩王』より

※蔵前…競歩のコーチ

※八千代…競歩の男子選手

※警告…
 競歩では歩く際のフォームに
 厳格な制約があり、
「常にどちらかの足を接地させる」、
「前足のひざを伸ばす」などのルールがある。

 違反が認められると注意や警告が出され
 失格になる場合もある。

※能美…「全日本競歩能美大会」のこと。

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■問

●【八千代の本質と弱点を見抜いている】
 とありますが、蔵前が見抜いた
 八千代の選手としての
「本質と弱点」はどのようなものですか。

 51字以上60字以内で説明しなさい。

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■解き方の手順
 
1 問いで聞かれていることを確認する。

2 答えの材料(要素)になりそうな
  ところを本文から見つける。

※ 削るのは楽なので多めに見つけておく。

3 それらの材料(要素)を1つにまとめる。

※ 同じ内容は1つにする。

※ 材料(要素)を書く順番に気をつける。
  本文に出てきた順に書かなくても良い。

4 指定された字数以内に収める。

※字数がオーバーしてしまう場合は
 字数が少ない同義表現に
 言い換えるなど、工夫する。

5 問いとつなげてみて
  答えの意味が分かるか確認する。

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■解説・解答

 手順通りに考えていきます。

1 問で聞かれていることを確認する。

 この手順で確認して欲しいのは
 今回答えるべきことは
 八千代の「本質と弱点」の
 2つということです。

 本質…?
 弱点…? と考えましょう。

2 答えの材料(要素)になりそうな
  ところを本文から見つける。

  頭の中に
 「八千代の本質と弱点」という
 イメージを持ちながら探してみましたか?

 以下のところが見つかると思います。

※本質か弱点のどちらか
 見分けられなくても良いです。

 問では
「『本質と弱点』はどのようなものですか」
 と聞いているだけで
 どちらかに分類する必要はないため。

●本質…

「本当はさ、走りたいんじゃない?」

「走りたいけど仕方なく競歩やってない?」

「走れない鬱憤とか苛立ちを
 エネルギーに競歩をやる」

「長距離走を続けられるなら
 きっと続けた」

●弱点…

「歩いているときの君は、
 刑罰でも受けてるような顔をしてる」

「長い距離を歩くとき―特に
 後半に入るとフォームが安定しない。

 スパートをかけたときに
 スピードを出そうと《走り》の動きが
 出て来ちゃう…

 警告出されるの、
 レースの後半が多い」

「直し甲斐のあるフォーム」

「勝手に焦って不安になって」

3 それらの材料(要素)を
  1つにまとめる。

※できるのであればもうこの段階で
 完成形である
 51字以上60字以内になるように
 まとめましょう。

 このメルマガでは省略せずに
 分かりやすく丁寧にやっていきます。

 とりあえず、字数を気にしないで
 2で挙げた材料(要素)を
 1つにまとめてみれば良いです。

●本質…

・「本当はさ、走りたいんじゃない?」
・「走りたいけど仕方なく競歩やってない?」
・「走れない鬱憤とか苛立ちを
 エネルギーに競歩をやる」
・「長距離走を続けられるなら
 きっと続けた」

●「長距離走を続けられるなら
 続けたが
 仕方なく競歩をやっていて
 走れない鬱憤とか苛立ちを
 エネルギーにしている」

※同じ内容は1つにしましょう。

※読んで分かりやすい順にしましょう。

●弱点…

・「歩いているときの君は、
 刑罰でも受けてるような顔をしてる」
・「長い距離を歩くとき―特に
 後半に入るとフォームが安定しない。
 スパートをかけたときに
 スピードを出そうと《走り》の動きが
 出て来ちゃう…
 警告出されるの、
 レースの後半が多い」
・「直し甲斐のあるフォーム」
・「勝手に焦って不安になって」

●「歩いているときは
 とても苦しい顔をしていて
 後半に入るとフォームが安定せず
 スパートをかけたときに
 《走り》の動きが出てしまい
 警告を出されてしまう」

※比喩は使わないようにしましょう。

※無くても意味が分かるものは
 削りましょう。

4 指定された字数以内に収める。

●本質…
●「長距離走を続けられるなら
 続けたが
 仕方なく競歩をやっていて
 走れない鬱憤とか苛立ちを
 エネルギーにしている」

●弱点…
●「歩いているときは
 とても苦しい顔をしていて
 後半に入るとフォームが安定せず
 スパートをかけたときに
 《走り》の動きが出てしまい
 警告を出されてしまう」

◎「長距離走を続けたかったが
 仕方なく競歩をやっていて
 その鬱憤を
 エネルギーにしている。

 後半にフォームが安定せず
 警告を出される。」 

※2文になっても大丈夫です。
 それで減点にはなりません。

※無くても意味が分かるものは
 削りましょう。

5 問とつなげてみて
  意味が分かるか確認する。

問:
 蔵前が見抜いた
 八千代の選手としての
「本質と弱点」は

答:
「長距離走を続けたかったが
 仕方なく競歩をやっていて
 その鬱憤をエネルギーにしている。

 後半にフォームが安定せず
 警告を出される。」

 大丈夫ですね、意味が分かります。

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■解答(学校発表なし)

 長距離走を続けたかったが
 仕方なく競歩をやっていて
 その鬱憤をエネルギーにしている。

 後半にフォームが安定せず
 警告を出される。 (60字)

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★おまけ

 渋々の記述の字数制限の下限は
 41字や51字だったりして
 一の位が0ではなく1となっています。 

 姉妹校の渋幕でも
 こういった傾向はなく
 恐らく渋々のみだと思います。

 したがって、もし何かの教材で
 字数制限の下限が
 何十“一”字以上という
 ものを見かけたら
 それは渋々の過去問だと思って
 間違いないです。
 
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★おまけ2

 額賀さんは
 日本大学芸術学部文芸学科を
 ご卒業され、青春小説や
 スポーツ小説を多く書かれています。

『競歩王』は2019年9月に出版され 
 渋々の他に、2021年岩手県立入試
 2023年中村高校で出題されました。

『屋上のウィンドノーツ』は
 2016年高輪中、桐蔭学園中女子部
 2018年中大横浜、四天王寺中
 2020年豊島岡女子学園中

『風に恋う』は
 2019年甲陽学院、山脇学園、開智未来中
 2023年盈進(えいしん)高校

『ヒトリコ』は
 2016年市川、品川女子中

『タスキメシ』は
 2017年本郷中、千葉県立入試

『完パケ!』は
 2019年聖光学院中で
 出題されました。

 ご本人の公式サイトです。
 https://nukaga-mio.work/

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