■次の文章を読んで
後の問に答えなさい。
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「※俺のデビュー作、20万部売れた。
新しい世代の書き手が現れたって。
リアルな青春を描く新星だって」
【中略】
「凄いじゃないですか」と、
※八千代が答えた。
「二作目は、
プレッシャーもあったけど、
結構楽しく書いたんだ。
『読者の期待を軽々と
越えた傑作だ』って、
文芸誌に書評が載った」
「それも凄いですね」
「三作目は、デビューした
玉松書房じゃないところから出した。
『アンダードッグ』ってタイトル。
俺は気に入ってる話だったのに、
売り上げがイマイチ奮わなくて、
ネットでもいい感想を見かけなかった。
それで俺も、書きたいものを
楽しんで書くだけじゃなくて、
ちゃんと数字とか需要とか、
そういうことを考えないと
いけないんだなって思った」
【中略】
「四作目の『遥かなる通学路』は、
正直、いろいろ考えすぎて
書くのがきつかった。
担当からたくさん修正指示が入って、
何がいいのかわからなくなって、
無理矢理完成させた。
一昨年の1月に出した
『嘘の星団』も同じような感じだったな。
去年出した『アリア』は久々に
そういう息苦しさを
抜け出せたような気がしたんだけど、
結局未だにスランプのままだ。
世間はもう、天才高校生作家
のことなんて忘れてる」
【中略】
「『遥かなる通学路』の頃からかなあ。
思ったように書けなかったって気持ちとか、
期待に応えられなかったって気持ちを、
次の作品に投影するようになったの。
『遥かなる通学路』の分まで
『嘘の星団』に、
『嘘の星団』の分まで 『アリア』 にって…
失敗から逃げ回るみたいに、
自分の中にできちゃった穴を
次の作品で必死に埋めるようになったの」
穴は、増えていく。
忍の心はぼこぼこの穴だらけになっていく。
「天才高校生作家」でなくなった自分が
身につけるべき新しい《価値》を探して、
●【ゾンビみたいに彷徨(さまよ)う】。
「失敗して、次の挑戦で
その穴を埋めようとするんだよ。
※蔵前さんはああ言うけど、
俺はそういうものだと思う」
最初から何もかも上手く行くなら、
それに越したことなんてない。
次こそは、次こそは……
何度《次》を積み重ねたって
辿り着けないのかもしれない、
もう《次》なんてないかも
しれないと怯えながら、
それでも《次》を信じて生きている。
額賀 澪(ぬかが みお)著
『競歩王』より
※俺=榛名忍…
作家。競歩をテーマとした
小説を執筆するため
八千代に取材を行う。
※八千代…競歩の男子選手
※蔵前…競歩のコーチ
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■問
●【「ゾンビみたいに彷徨う】
とありますが、これは忍の
どのような様子を表したものですか。
最もふさわしいものを
次の中から1つ選びなさい。
ウ 人気作家としての過去の栄光を
取り戻したいという思いが空回りし、
思うような結果に結びつかず小説を
書くこと自体に嫌気がさしているが、
次の作品でこれまでの失敗を
埋め合わせなければならないという
考えに固執してしまい、
結果に怯えて苦悩しながらも、
書くことを諦められずにいる様子。
オ 華々しい作家デビューの後、
次第に自分の思いや周囲の
期待にかなう作品が書けなくなり、
心に大きな傷を負っているが、
次の作品を上手く書くことでしか
過去の失敗から逃れることが
できないという思いに取りつかれ、
先の見通しもなく、
もがき苦しみながら
小説を書き続けている様子。
※本来はア~オの5択でしたが
2択にしました。
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■解き方の手順
1 問で聞かれていることを確認する。
何について考えるのか?
2 1にもとづいて本文を読みかえす。
※本文全てを丁寧に読む必要はない。
正誤の判断材料が書かれていそうな
ところだけ丁寧に読んで
そこに線を引く。
※頭の中だけで整理できるのであれば
線は引かなくても良い。
3 2で見つけた箇所にもとづいて
それぞれの選択肢の正誤を判断する。
※選択肢が長い時は
句読点などで切り、そこに
/(スラッシュ)を入れる。
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■解説・解答
手順3から説明します。
ウ 【人気作家としての過去の栄光を
取り戻したいという思いが
空回りし、/】
⇒△
文章の中ほどの忍のセリフに
「世間はもう、天才高校生作家
のことなんて忘れてる」
とありますが、これだけで
【人気作家としての過去の栄光を
取り戻したいという思い】
があると断定するのは
少し難しいかなと思います。
【思うような結果に結びつかず
小説を書くこと自体に
嫌気がさしているが、/】
⇒〇
「三作目…『アンダードッグ』…
売り上げがイマイチ奮わなくて…」
「四作目…『遥かなる通学路』は…
いろいろ考えすぎて
書くのがきつかった。」より
【次の作品でこれまでの失敗を
埋め合わせなければならない
という考えに固執してしまい、/】
⇒△
文章の最後の方の忍のセリフに
「失敗して、次の挑戦でその穴を
埋めようとするんだよ。…
俺はそういうものだと思う」
とありますが「固執している」
とまでは言えないと思います。
【結果に怯えて苦悩しながらも、/】
⇒〇
「もう《次》なんてないかも
しれないと怯えながら」より
※《次》というのは次回作のこと。
【書くことを諦められずにいる様子/】
⇒〇
「次こそは、次こそは……
それでも《次》を信じて生きている」より
オ
【華々しい作家デビューの後、】
⇒〇
「俺のデビュー作、20万部売れた。
新しい世代の書き手が現れたって。
リアルな青春を描く新星だって」より
【次第に自分の思いや周囲の期待に
かなう作品が書けなくなり、】
⇒〇
「三作目は…『アンダードッグ』…
売り上げがイマイチ奮わなくて、
ネットでもいい感想を
見かけなかった」、
「四作目の『遥かなる通学路』は…
いろいろ考えすぎて
書くのがきつかった。
何がいいのかわからなくなって、
無理矢理完成させた。」より
【心に大きな傷を負っているが、】
⇒〇
「穴は増えていく。
忍の心はぼこぼこの
穴だらけになっていく。」より
【次の作品を上手く書くことでしか
過去の失敗から逃れることができない
という思いに取りつかれ、】
⇒〇
「失敗して、次の挑戦でその穴を
埋めようとするんだよ。…
俺はそういうものだと思う」より
このセリフの直前にある
「ゾンビみたいに彷徨う」というのは
「取りつかれていること」を
表していると思います。
【先の見通しもなく、】
⇒〇
「もう《次》なんてないかも
しれないと怯えながら」より
【もがき苦しみながら
小説を書き続けている様子。】
⇒〇
「次こそは、次こそは……
何度《次》を積み重ねたって
辿り着けないのかもしれない、
もう《次》なんてないかも
しれないと怯えながら、
それでも《次》を信じて生きている」より
さて、もう一度ウとオを振り返ってみると
ウ⇒△2つ、他は〇
オ⇒全て〇
したがって、オが
「最もふさわしいもの」になります。
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■解答(学校発表なし) オ
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★おまけ
なぜ、渋渋は
選択肢問題が多いのか?
それは、入試が複数回あり
合否を早く出す必要があるからです。
※記述問題は採点に時間がかかり
選択肢問題はあまりかかりません。
※渋渋の、最終科目終了から
合格発表までの時間
・第1回入試⇒約25時間後
・第2回入試⇒約22時間後
・第3回入試⇒約22時間後
ちなみに、入試の回数が1回で
記述問題が多い学校は
合格発表までの時間が
・筑駒⇒約50時間後
・開成⇒約47時間後
・麻布⇒約50時間後
と、長くなっています。
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