2023年 浦和明 第1回 大問題1 問2

■次の文章を読み、
 後の問いに答えなさい。

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これは、
とある農村での話である。
この村の住民はそれぞれ、
自宅でウシを飼っていた。

ウシたちは、
村共有の牧草地で放牧され、
草を食んで暮らしていた。

村人は、ウシの乳をしぼったり、
ときにウシを市場に売ったりして
くらしの足しにしていたのである。

こういう状況がながく続き、
村人たちの生活は安定していたのだが、
ある日、知恵のはたらく村人が、
自分の飼うウシの数を
増やすことにしたのである。

子ウシを何頭も買ってきて
共有地で放牧し、
大きくなったら売りさばく。

こうしてこの村人は成功し、
財をなしたのである。

これを見ていたほかの村人たちも
「よし、おれもウシの数を増やそう」
と思い立ち、その結果村の共有地で
放牧されるウシの数が激増するに至った。

しかし、共有地の
面積にはかぎりがあり、
そこで育つ牧草の量にもかぎりがある。

やがて牧草は食べつくされ、
ウシたちはみんな飢え死にしてしまった。

結局村人たちはみなお金を損して、
不幸になってしまった。

これが●【共有地の悲劇】という
寓話[=教訓的な話]である。

(伊勢 武史(いせ たけし)著

『2050年の地球を予測する―
 科学でわかる環境の未来』より

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■問

●「共有地の悲劇」について、
 次の問いに答えなさい。

「共有地の悲劇」と同様の仕組みで
 発生する事例として
“当てはまらないもの”を
 次から1つ選び、記号で答えなさい。

ウ 町内会の地域清掃は面倒だからと
  皆が参加しなくなった結果、
  害獣や害虫が増え、
  住みにくい街になってしまった。

エ 伐採した樹木の代わりに
  植林を進めて環境保全に努めた結果、
  多くの人が花粉症に
  悩まされるようになってしまった。

※本来はア~エの選択肢でしたが
 このメルマガ用にアとイの
 選択肢は削除しました。

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■解説・解答

 いきなり選択肢を見る前に
「共有地の悲劇」とはどういうことなのか
 その構造を抽象的に捉えましょう。

(抽象的に捉えることによって
 具体例が正しいかどうか判別できます。)

※ 彼の趣味はスポーツだ。
→○サッカー、野球、ラグビー
 ×映画鑑賞

「とある農村での話」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 これを見ていたほかの村人たちも
「よし、おれもウシの数を増やそう」
 と思い立ち、その結果村の共有地で
 放牧されるウシの数が激増するに至った。

 しかし、共有地の
 面積にはかぎりがあり、
 そこで育つ牧草の量にもかぎりがある。

 やがて牧草は食べつくされ、
 ウシたちはみんな飢え死にしてしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 をもとに「共有地の悲劇」
 について考えると
「一人一人が自分の利益を追求した結果
 みんなが損をすることになってしまった。」
 ということですね。

 このように抽象化できたら
 各選択肢を見ましょう。

ウ 町内会の地域清掃は面倒だからと
  皆が参加しなくなった結果、
  害獣や害虫が増え、
  住みにくい街になってしまった。

 前半の
「町内会の地域清掃は面倒だからと
 皆が参加しなくなった」は、
 一人一人が自分の利益を
 追求していますね。

 そして後半の
「害獣や害虫が増え、
 住みにくい街になってしまった」も
 みんなが損をすることに
 なってしまった結果ですね。

 つまり「共有地の悲劇」と同様の
 仕組みなので答えとしては×です。
 

エ 伐採した樹木の代わりに
  植林を進めて環境保全に努めた結果、
  多くの人が花粉症に
  悩まされるようになってしまった。

 前半の「伐採した樹木の代わりに
 植林を進めて環境保全に努めた」は
 一人一人が自分の利益を
 追求していませんね。
 
「植林を進めて環境保全」は
 一人一人の利益ではなく
 みんなの利益を追求しています。

 したがって、「共有地の悲劇」と
 同様の仕組みではないため
 答えとしては○になります。

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■解答(学校発表なし) エ

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★おまけ

 伊勢さんは、生態学者で、
 高校卒業後しばらく働き
 アメリカのワイオミング大学で
 生物学を学んだあと 
 ハーバード大学大学院に進学され
 進化・個体生物学部を
 修了されています。

 現在は、京都大学
 フィールド科学教育研究センターで
 教授をされています。

 NATIONAL GEOGRAPHICのWeb版に
 ご本人による経歴の説明が
 掲載されています。

第1回 僕が森の研究をはじめたわけ
こういう経験は、自然のことを研究してる人にはわりとよくあるエピソードなんだけど、僕にはその後、屈折の季節があった。この経験がその後の研究にも生き方にも大きな影響を与えていると思うので、すこし語らせていただきたい。

 この『2050年の地球を予測する
ー科学でわかる環境の未来』は
 2022年1月出版で
 浦和明の星の他に
 海陽中等教育、大妻、巣鴨、
 京都女子、青山学院横浜英和
 洗足学園で出題されました。

 出版から約1年後の入試で
 7校の入試に出題されるとは
 すごいですね。
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