2023年 武蔵(私立) 大問題1 問4

■次の文章を読んで
あとの質問に答えなさい。

ここでとても参考になる古典があります。

マルセル・モースが
1925年に出版した『贈与論』です。

(中略)

モースは、
『贈与論』出版の前年に
「ギフト、ギフト」という論文を
書いています。

彼は冒頭で次のように述べます。

 さまざまなゲルマン語系の言語で、
 ギフト (gift) という一つの単語が
 「贈り物」という意味と
 「毒」という意味と、
 二つの意味を分岐してもつようになった。

ん?何気ない一文ですが、
とても物騒なことが書かれていますよね。

「ギフト」という単語には
二つの意味があり、
一つは「贈り物」、そしてもう一つは
「毒」だと述べられています。

「贈り物」は、一般的に
相手に対する好意に基づいて
行われると思われています。

(中略)

しかし、
●【この「贈り物」の中には、
時に「毒」が含まれていると、
モースは指摘します。

一体、どういうことでしょうか?】

私たちは「贈り物」をもらったとき、
どういう気持ちになるでしょうか。

まずは、「うれしい」という
感情が湧き上がり、
相手に対する感謝の念が
湧き起こると思います。

(中略)

しかし、少し時間が経つと
別の感情が湧いてくることになります。

―「とてもいいものをもらったのだから、
お返しをしないといけない」。

もらったものに匹敵するものを
「返礼」として渡さないといけない。

(中略)

そんな思いに
駆られるのではないでしょうか。

これは結構なプレッシャーです。

(中略)

もし、自分に金銭的余裕がなく、
十分なお返しができない場合、
プレッシャーはさらに
大きなものになります。

そして、実際に
お返しを渡すことができないでいると、
自分の中で「負い目」が増大していきます。

本当はプレゼントとしてもらったのに、
なぜかそれが「負債」のような感覚になり、
心の錘(おもり)になっていったりします。

ここで、この両者の間に
何が起きているのでしょうか?

それは与えた側がもらった側に対して
「優位に立つ」という現象です。

もらった側が、
十分な返礼ができないでいると、
両者の間には
「負債感」に基づく優劣関係が生じ、
徐々に上下関係ができていきます。

これが「ギフト」の「毒」です。

この「毒」は、
溜まれば溜まるほど、
相手を支配し、
コントロールする道具になっていきます。

( 『思いがけず利他』
  中島 岳志たけしより)

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■問

●【この『贈り物』の中には、
 時に『毒』が含まれていると、
 モースは指摘します。

 一体、どういうことでしょうか?】
 とあるが、筆者の考える答えを
 説明しなさい。

※この問自体に字数制限はありません。

 マス目がない解答欄の大きさに合わせて
 記述する必要があります。

 実物大の解答欄を見たところ
 約100~120字だと思います。

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■解説・解答

 まず問で聞かれていることを確認します。

 問は
「【この『贈り物』の中には、
 時に『毒』が含まれていると、
 モースは指摘します。

 一体、どういうことでしょうか?】
 とあるが、筆者の考える答えを
 説明しなさい。」 とあります。

 これはつまり

「『贈り物』の中には
『毒』が含まれていると
 指摘できるのは
 どうしてかと
 筆者は考えていますか?」

 という問だと思って下さい。

 次に、これに対する 
 筆者の考え(答え)を
 本文から探します。

 すると、一番大事な箇所として
 以下の部分が
 見つかるのではないでしょうか。

★1
「もらった側が、
 十分な返礼ができないでいると、

 両者の間には
『負債感』に基づく優劣関係が生じ、
 徐々に上下関係ができていきます。

 これが『ギフト』の『毒』です。」

 最後に

「これが『ギフト』の『毒』です。」

 と、答えになりうる
 決定的な表現があるので
 ここが一番大事な部分になります。

 またその他には
 以下の箇所が
 見つかるのではないでしょうか。

★2
「もし、自分に金銭的余裕がなく、
 十分なお返しができない場合、
 プレッシャーはさらに大きなものになります。

 そして、実際に
 お返しを渡すことができないでいると、
 自分の中で『負い目』が増大していきます。

 本当はプレゼントとしてもらったのに、
 なぜかそれが『負債』のような感覚になり」

★3
「もらったものに匹敵するものを
『返礼』として渡さないといけない。」
(「プレッシャー」や
 「負い目」に対する説明。)

 そして、この★1~3をまとめます。
(見やすいようい★1~3を再掲します。)

★1
「もらった側が、
 十分な返礼ができないでいると、
 両者の間には
『負債感』に基づく優劣関係が生じ、
 徐々に上下関係ができていきます。 」
★2
「もし、自分に金銭的余裕がなく、
 十分なお返しができない場合、
 プレッシャーはさらに大きなものになります。
 そして、実際に
 お返しを渡すことができないでいると、
 自分の中で『負い目』が増大していきます。
 本当はプレゼントとしてもらったのに、
 なぜかそれが『負債』のような感覚になり」
★3
「もらったものに匹敵するものを
『返礼』として渡さないといけない。」

○「もし、贈り物をもらった側が、
 金銭的余裕がなく、
 十分なお返しができない場合、
 もらったものに匹敵するものを
『返礼』として渡さないといけないという
 プレッシャーはさらに大きなものになり
『負い目』が増大していきます。

 そしてそれが『負債』のような感覚になり
『負債感』に基づく優劣関係が生じ、
 徐々に上下関係ができていきます。」

※★2→3→1の順にしました。
 
 これをさらに
 読みやすいようにまとめると

◎「贈り物をもらった側が
 もらったものに匹敵するものを
 『返礼』として渡さないといけないという
 思いに駆られ
 十分なお返しができない場合、
 『負い目』が増大し
 それに基づく優劣・上下関係が
 できるということ。」

※「金銭的余裕がなく」は削りました。
(それ以外の場合もあり得るため。)

※同じ内容の箇所は1つにしました。

※読みやすいように
 適宜言葉を補いました。

 最後に、問とつなげてみて
 意味が分かるか確認します。
 
問:「【この『贈り物』の中には、
 時に『毒』が含まれていると、
 モースは指摘します。

 一体、どういうことでしょうか?】
 とあるが、筆者の考える答えは

答:「贈り物をもらった側が
 もらったものに匹敵するものを
 『返礼』として渡さないといけないという
 思いにかられ
 十分なお返しができない場合
 『負い目』が増大し
 それに基づく優劣・上下関係が
 できるということ。」

 大丈夫ですね、意味が分かります。

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■〈解答例〉(学校の発表)

 返礼のいらない贈与であったはずが、
 もらったものに匹敵するものを
 返礼として渡さないと
 いけない思いに駆られ、
 さらに十分なお返しができないでいると
 負い目が増大し、それに基づく
 優劣関係・上下関係が
 できるということ。 (103字)

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★おまけ

 武蔵の先生が書かれた講評を
 一部、引用します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
  ポイントをおさえず、
  だらだら書き散らしているだけの答案、
  内容を理解しないまま
  文中の言葉をつなげただけと思しき
  答案が多く見られたのは残念だった。

  筆者の考えを理解し、それを相手に
  伝わる文章で書く力が求められる
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 まず、筆者が何で
「『贈り物』の中に、『毒』が含まれる」
 と思っているのかを理解しましょう。

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